アーキグラムの「アイディア・サーカス」

Ideas Circus by Archigram
Ideas Circus by Archigram

1960年代のロンドンに「アーキグラム」という建築家集団がいました。
彼らは実際に建てられる実作をつくらず、建築にまつわるさまざまなドローイングを雑誌として発行し、紙のメディアによって世界中の建築家に大きな影響を与えました。足のついた巨大な都市である「ウォーキング・シティ」、取り外し可能はユニットで組み立てられた「プラグイン・シティ」などが有名です。
アーキグラム – Wikipedia

彼らの(仮想)プロジェクトの中で、アイデアキャンプに近いアイデアに「アイディア・サーカス」というものがあります。
—– アイディア・サーカス スキーム
セミナー、会議、展覧会、討論会に必要な設備を、5、6台のトラックで運ぶパッケージ。これを既存の建物や設備に連結し、はじめから「サーカス」用であったかのごとく使う。もっとも「サーカス」は完全に自律的である。必要ならば、野原のまんなかでも成立つ。地方の主要施設を巡り、大学にマイクをしかけ、人やテキスト、実験室の映像を手に入れる。これを、場所を変えて繰り返す。小さな街を週末に巡ってもよい。数台の車で地区の女性センターの討論会へ出かけてもよい。「アイディア・サーカス」の中身は、基本的にフィルムとスライド。フィードバックのための設備は重要だ。セミナー、テキスト、映画などの資料化がなされ、保存されなければならない。一定の場所を動かない教育施設は、補充が必要となる。一方、移動式施設は、来てもしばらくしたら、いなくなってしまう。だが、この「アイディア・サーカス」も、包括的な情報ネットワークができるまでの代用品にすぎない。
—– アーキグラム, 鹿島出版会, pp.100-101
こうしたモバイルオフィスのようなアイデアは、オフィス・働き方の小ネタ集とも言える「POST-OFFICE」の中にも描かれています。POST-OFFICEの著者の中にもアーキグラムが大好きなメンバーがいて、今でも様々な時代の建築家に影響を与え続けています。もちろん、僕もそうした影響を受けた一人です。

アイディア・サーカスは、都市を構成するエレメント(広告や映像装置など)を気球や飛行船で運び、旧来的な都市を仮設的に変容させる「インスタント・シティ」の小規模版と言えます。
Instant City by Archigram
Instant City by Archigram

アーキグラムのすべてのプロジェクトに共通する特徴は、「可動的・増殖的」「仮設的」「遊牧民的(もしくはゲリラ?)」であり、それらが実現することによって既存の都市を変容させることです。

さまざまなスケールの装置を都市に挿入して空間の使い方を変えようとする試みは、情報系の研究分野としてモバイル・コンピューティングやユビキタス・コンピューティングといった領域でもさまざまな研究が行われています(この辺が中西の研究分野でもあります)。

アイデアキャンプも近しい特徴を持っていますが、ひとつ違うことは「セルフビルド(自分でつくること)」です。都市やオフィスといった空間につくる人と使う人という関係ではなく、使う人がつくる、つくる人が使う、そういう関係がもっと広まれば良いなと考えています。
この視点からすると、近しいプロジェクトとして「東京ピクニッククラブ」があります。紹介はまた別のエントリーにて。

アーキグラム, アーキグラム, 鹿島出版会
アーキグラム

POST‐OFFICE―ワークスペース改造計画, 岸本 章弘, 中西 泰人, 仲 隆介, 馬場 正尊, みかんぐみ, TOTO出版
POST-OFFICE


Robert McKimによるVisual Thinking

アイデアキャンプの参考文献の中で、図を引用+改変している書籍が2つあります。

ひとつは 川喜田 二郎 発想法―創造性開発のために 中公新書。もうひとつが Robert H. McKim Thinking Visually: A Strategy Manual for Problem Solving Dale Seymour Pubnです。
アイデアキャンプの考え方はこの2冊の本から大きな影響を受けています。
「Thinking Visually」は、魅力的な表紙の
 Experiences in Visual Thinking
 Experiences in Visual Thinking second edition (General Engineering)
の内容を引き継いでバージョンアップされ、横長の版から縦長の版になって読み易くなっています。この本の図のひとつを参考にしたものが、アイデアキャンプの書籍「図1-1 アイデアキャンプにおける発想の進め方」(p. 22)です。

著者のRobert McKimはStanford大学の機械工学科で、創造性を刺激するユニークな授業を1960年代から続けていたことで知られています。その流れは今でもStanford Design Programに受け継がれています。

Experiences in Visual Thinkingの2つの表紙は、すこしドキッとするような表紙ですね。最初のバージョンの方が不思議な眼力を感じるようにも思います。ちょっと本棚を整理している時に、ばらばらに置いていた三冊がまとまったので、写真に撮ってみました。

McKim先生はStanfordの名誉教授をされていて、まだご健在のようです。一度でもお目にかかれる機会があれば、などと思っています。
別のエントリーでIDEOのティム・ブラウンによるTED Talkを紹介する予定ですが、IDEOのトム・ケリーとティム・ブラウンはRobert McKimの授業を受けていたそうで、ビデオの冒頭で紹介されています。


笑う門にはアイデア来る?:東大・暦本研のSmiling Makes Us Happier

アイデアキャンプではアナログな道具ばかりを使っていますが、中西は大学ではデジタルな情報環境の研究をしています。先日、北京で開かれたACM Ubicomp2011という情報系の国際会議に参加してきました。

そこで東京大学の暦本純一教授が「Smiling Makes Us Happier: Enhancing Positive Mood and Communication with Smile-Encouraging Digital Appliances」という研究を発表されていました(発表のスライド+ビデオが↓に)。
デジカメのスマイルシャッターの機能を使って、あなたは今笑っていませんよと語りかけてくる鏡や、笑わないと開かない冷蔵庫を使っていると、人の顔がだんだん変わってくるというシステムが紹介されました。この会議でいちばんウケていた発表だったと思います。

「笑う門には福来る」と言いますが、それを裏付けるような心理学の研究例も参照しつつ、情報環境が良いフィードバックを提供すれば人はよりポジティブに生活できる、という提案です。
発表ではそうした例として、カロリーを消費しないと開かない電子レンジや、笑顔でないと入れない会議室、というものも紹介されました。みんなが笑っていれば会議やブレストも盛り上がり、良いアイデアが出るんでは?ともおっしゃられていました。

発表の次の日にホテルの朝ご飯をご一緒させていただいたのですが、アイデアキャンプの狙いも、自然とリラックスできて笑顔でいられる場所で発想すると良いアイデアが出るんでは?ということなんです、とお話をしたら「なるほどー」とおっしゃられていました。

アイデアキャンプでは、良いとされる行為をしたらよりその行為が促進されるというフィードバックループを特に組み込んでははいませんが、デジタルな情報環境を取り込んでいくことも少し考えていきたいと思いました。


ポストイットを組み合わせながらPMI

何人かで出したアイデアをより多くの人にお披露目して、アイデアを絞りながらその中からさらにアイデアを拡げる、というワークショップを某所でやってきました。色々な人の意見を共有したかったので、書籍の中でも紹介しているPMIを行いました。

PMIはアイデアの評価をする時に、「良い plus」or「悪い minus」だけではなく、「興味深い interesting」を加えるという方法です。それらを下にポイントを整理して、アイデアを発展/さらに具体化します。

今回は大人数で行ったので、まずA0の段ボールにA4の紙に描いたアイデアをたくさん貼って、アイデアの紹介をしました。(残念ながらこの写真はお見せできません…)

個々のアイデアを聞くいて自分が思ったこと・感じたことを書き留めてもらいながら、後でまとめてPlus Minus Interestingを書いてもらい、さらに自分のアイデアを思いついた人にはアイデアを付け足してもらう、というかたちで進めました。

書籍の中では画板と一種類のポストイットを使う方法を説明しましたが、今回は名刺よりひとまわり小さいサイズの50mm x 75mmを4色、ミーティングノートと呼ばれる149mm x 200mmのものを使いました。名刺よりひとまわり小さいサイズはA8、ミーティングノートはA5ぐらいの大きさです。

名刺サイズの緑色のものにメモ書きをしてもらっておき、その後に青にPlus、ピンクにMinus、黄にInterestingを書いてもらって、新しいアイデアはミーティングノートに描いてもらいました。

まずはアイデアを一通り説明して、その間はメモを書いてもらいます。その後は、段ボールの前に行ってPlus, Minus, Interestingのポストイットを貼っていってもらいました。
その後に、それぞれのアイデアについてみなさんが書いたPMIを発表してもらいました。新しいアイデアを思いついた人は、さらにそのアイデアの説明も。

PMIの後は自由に発言をしてもらいました。ある方が、同じメンバーで会議を何度かやっているけれど、いつもの5倍ぐらい発言の量があった、とおっしゃってました。5倍ですよ、5倍。
PMIの時に共通の対象についてまず考える時間があったこと、そして1人1人が発言する時間があったことで、今は自分の考えていることを言ってだ丈夫な場なんだと思っていただけたのだと思います。

いつもは会議が終るやすぐにみんな自分の部署へ戻って行かれるそうですが、この日は終った後もしばらくその場で何人の方が立ち話をされていました。

さらにスケッチを会議で描き合うということは普段はないそうですが、何人かの方がスケッチをその場で描いていました。これぞ、道具と環境が変われば、プロセスと結果が変わるという好例だったと思います。

考えやすい+描きやすい+話しやすい場を作ることができた、ということだと思うのですが、アイデアキャンプをやった甲斐があったというものです。

色とサイズで考える過程と結果を共通化することで、後で話す内容を共有化し易くなることがあります。もちろんもっと自由に考えることが大事なフェーズもあるのですが、今回のワークショップのように技法を取り入れることのメリットもあるのです。人数が増えた場合や、お互いが何をどう話せば良いかを共有できていない場合には、効果が高いと思います。

余談ですが、ミーティングノートの大きさのポストイットを持っていくと、「えー、こんなサイズのもの売ってるんですねー」と驚かれることがけっこうあります。文房具店ではほとんど取り扱われることがないからだと思いますが、言葉だけでなく具体的なアイデアを絵や図として描いていくには、A5サイズぐらいでないと難しいものです。

通販ですぐに買うことができますから(ちょっと値段が高いのですが)、気になった方は一度試してみてください。
kaunet 住友スリーエム 強粘着ミーティングノート 149×200


現場へ出かけるアイデアキャンプ

アイデアキャンプで出かける先として「気持ちの良い場所」だけでなく、「現場」へも出かけることがあります。

先日、某社の方々と某所へフィールドワークに出かけました。

その会社の皆さんも普段はホワイトボードをとても上手に使われている方々ですが、A5サイズのノート型のポストイットやポストイットのりや、また画板やカードケースをホワイトボードの替わりになることはご存知なかったようで、文房具を持って現場に出かければ色んな場所でブレストができるんだー、と少し感心されていました。

フィールドワークでとあるビルに登って、久しぶりに高い場所から東京を見渡しました。東京って本当に広い平野ですね。
関西出身の私(中西)は周りには山があるのが日常だったので、東京に住み始めた頃にはとても違和感を持ちました。平野だと思っていると激しい坂もたくさんあったりして、それも最初は驚いたものです。

フィールドワークに出ると、そんなちょっとした事の積み重ねが自分の中にたくさん溜まります。

さらに写真を撮りつつメモを書いていると、自分のアンテナが何かにチューニングし始める感覚が湧き上がってきます。

フィールドワークの後に各々が撮った写真を見せ合いながら感じたことを共有しましたが、やはり行く前と行った後では、気になるポイントの質が違ってきます。

そんなちょっとした気づきが、アイデアの種子になっていきました。